機関投資家勤務でサラリーマンの仕事として不動産投資を行う私が、個人でも不動産投資を始めてみました。このカテゴリーでは、私が一番大事だと思ったこと=不動産を運用する上での思考の土台を書いていけたらと思います。次回以降で詳しく解説していきますので、プロローグということで軽く読み飛ばしていただいて構いません。
不動産投資家は、特別な属性・素質を持つ人たちだと考えていた
不動産投資について考え始めた当初、私は不動産投資家を特定の属性を持つ人たちの集合だと捉えていました。具体的には、
- 若い頃から不動産に関わってきた
- バリバリの高収入
- もともと地主や不動産オーナーの家系である
- 一般的なサラリーマンには無い、人並外れた決断力・行動力・物件選定眼を備えている
といったイメージです。
一方で、自分自身はごく平均的なサラリーマンであり、そういった特別なバックグラウンドもありません。そのため、不動産投資はロジック以前に「人の問題」で決まる世界であり、自分とは距離のあるものだと少し諦めていたようなところがありました。
成功談が「属人的」に見える理由
この認識は、不動産投資をするにあたって情報収集する中で、むしろ強化されていきました。語られる内容の多くは、
- どの物件を選んだか
- どの金融機関とどう関係を築いたか
- どの局面で意思決定をしたか
といった、個別具体的なエピソードです。
これらは実務上重要である一方、判断の背後にある共通の基準や構造が明示されることは多くありません。結果として、成功は「再現可能なロジック」ではなく、その人固有の経験や胆力、時機をつかむ先見の明の産物として理解されがちになります。この点が、不動産投資を「学びにくい分野」に見せている一因だと感じていました。
仕事の世界では、投資は構造で評価されていた
一方で、私が仕事で接してきた機関投資家や不動産ファンドの運用では、投資判断はより構造的に整理されています。個別物件の良し悪しももちろん重要ですが、資本全体としてどれだけ価値を創出しているかです。そしてそれが、投資理論に沿っているか否かです。
その評価軸として用いられる代表的な概念が、EVA(経済的付加価値)です。不動産証券化の実務書には、次のように整理されています。
経済的付加価値(EVA)の成長は、①運用資産の増加、②投下資本収益率(ROIC)の上昇、③加重平均資本コスト(WACC)の低減によってもたらされる(中略)EVAの成長はこれら3要素の組み合わせで決まる。簡単に言えば、運用資産を増やしながら同時に分配を持続的に成長させることによってEVAの安定的な成長が達成される。これは、2001年にJ-REITが誕生してから今日までに明らかになった不動産ポートフォリオ運用戦略のベストプラクティスである。
――川口有一郎、栗林達也 (2024)
『2024年度マスター養成講座テキスト 実務演習 不動産証券化商品分析』.一般社団法人不動産証券化協会.p.129
ざっくり言ってしまうと、不動産ファンドを運用する人たちというのは下記の掛け算であらわされる「EVA」なるものを追い求めること(そして次節以降で解説しますが、それにより得られた利益を分配し、もしくは証券の時価を上げることで投資家に帰属する利益を最大化すること)を行動原理にしているというのが、現代の不動産ファンド運用理論の主流的な考え方となっています。
EVA = 運用資産残高 ×(ROIC − WACC)
不動産投資を「別のもの」として切り分けていた
このような考え方を理解していながら、私は長らく、不動産投資をこのロジックとは別の世界に位置づけていました。理由は明確です。不動産投資は、
- 現地確認
- 個別交渉
- 借入条件
- 最終的な意思決定
といった、人の判断が前面に出る領域が多く、ファンド運用のような定型化された議論とは馴染まないと感じていたからです。
ある書籍との出会い【←すごくオススメ!】
しかし、個人で不動産投資するにあたり情報収集する中で、ある本に出合います…。こちらの本です。
この本で語られている主題は
借入を起こして都市部の収益物件を購入する場合、安定した高い賃料収入(純利回り)と低い借入金利の差額(スプレッド)こそが不動産を保有した際の利益の源泉になっていることを確認してください。
―― 玉川陽介(2017)
『Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて』.技術評論社.p.16
つまり
- 購入しようとしている不動産の純利回り(=NOI利回りとも言います)は何%確保できるか
- 借入金利は何%で資金調達できるか
- 両者の差(スプレッド)は十分か
というロジックを中心として、不動産投資を考えましょうということです(そして更にありがたいことに、この考え方を投資判断にあたって実践できるエクセルまで特典として付いています)。
この記述を、改めてサラリーマンとしての自分の投資判断プロセスに当てはめたとき、一つの結論に行き着き、この本は不動産投資をする上での私の座右の書になりました。今回からの一連の記事は私の気づきとその応用を記載していきます。
【次回予告】両者は、同じ構造を別の言葉で説明している
NOI利回りと借入金利。
ROICとWACC。
用語は異なりますが、
示している構造は同一です。
不動産投資家が行っている意思決定は、
特別な属性や才能によるものではなく、
スプレッドが正である状態を前提に、
資産規模をどう拡大するかという判断に他なりません。
これは、
機関投資家が不動産投資の際にEVAを用いている行動原理と、本質的に同じです。
本記事の位置づけ
本記事では、
不動産投資と機関投資家の運用を
感覚や属性ではなく、構造で比較しました。
以降の記事では、
- EVAの各構成要素を
- 個人の不動産投資にどう対応づけられるか
- その視点が、物件選定や借入判断にどう影響するか
を、整理していきます。
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