最重要理論①不動産投資の利益とは何か?|機関投資家勤務しがないサラリーマンが不動産投資を始めて気づいたこと

最重要理論

機関投資家のEVAと、個人の不動産投資は「同じ式」を追いかけている

前回の記事では、不動産投資の世界に漂うある種の違和感について触れました。
それは、「成功している人の話を聞くほど、再現性がないものに感じてしまう」という感覚です。

立地、タイミング、属性、運。
どれも大切ではあるけれど、それらが強調されるほど、「自分には無理かもしれない」「結局は属人性の高い世界なのではないか」という印象が強くなっていきます。

一方で、私はこれまで機関投資家の世界、特に不動産ファンドの意思決定に近い場所で仕事をしてきました。
そこで語られている不動産投資は、驚くほど“感情”や“才能”から切り離された世界です。

ではなぜ、同じ不動産を対象にしているはずなのに、ここまで見え方が違うのでしょうか。

今回はまず結論からお伝えします。

不動産ファンドにおいて追い求められているEVA(経済的付加価値)と、
個人投資家が本来追い求めるべき不動産投資の成果は、本質的に同じ構造を持っています。

式で書くと、こうです。

  • 不動産ファンド:
    EVA = 運用残高 ×(ROIC − WACC)
  • 個人の不動産投資:
    NAV(の年間増加分) = 運用残高 ×(NOI利回り − 借入金利) − 税金

記号や言葉は違いますが、やっていることはほぼ同じです。
「どれだけの資産を使って」「資本コストを上回るリターンを」生み出しているか、ただそれだけを見ています。

この記事では、この対応関係を一度俯瞰し、
なぜこれが個人投資家にとって重要なのかを整理していきます。


不動産ファンドは、何をもって「成功」と判断しているのか

まず、不動産ファンドの世界から見てみましょう。

ファンドの最終的な目的はシンプルです。
預かった資本を、資本コスト以上で運用し続けること。

そのために使われる代表的な概念が、EVA(Economic Value Added)です。
EVAは「会計上の利益」ではなく、「資本コストを控除した後に、どれだけ価値を生んだか」を測ります。

ここで重要なのは、

  • 売却益が出たかどうか
  • 単年度で黒字かどうか

といった話ではありません。あくまで、

  • 運用残高(どれだけの資本を使っているか)
  • ROIC(その資本がどれくらい効率よく回っているか)
  • WACC(その資本を調達するためのコスト)

この3点の組み合わせで、価値創造の有無が判断されます。

極端な話、
「損益計算書上で黒字でも、ROICがWACCを下回っていれば価値を生んでいない」
という評価が平然と下される世界です。

ここには、属人的なストーリーはほとんど入り込む余地がありません。


個人の不動産投資は、なぜ属人的に見えてしまうのか

では、個人の不動産投資はどうでしょうか。

成功談として語られるのは、

  • ●年で何棟買った
  • 家賃年収がいくらになった
  • フルローンで一気に拡大した

といったエピソードが中心です。

これらは確かにインパクトがありますし、聞いていてワクワクもします。
ただ同時に、「その人だからできたのでは?」という疑念も生みます。

ここで問題なのは、評価軸が暗黙のまま共有されていることです。多くの場合、

  • キャッシュフローが出ているか
  • 残債が減っているか
  • 物件価格が上がったか

といった要素が、バラバラに語られます。

しかし、それらを一つの構造として束ねる視点が欠けているため、
再現性が見えづらくなっているのです。


「NAV」という言葉で、個人投資家の成果を定義してみる

ここで一度、個人(もしくは資産管理法人)で行う不動産投資も、ファンドと同じように整理してみましょう。

個人投資家にとっての最終的な成果は何でしょうか。
それは突き詰めれば、自分の純資産(NAV)がどれだけ増えたかです。

NAVの意味するところは、下記のような表現になります

これまでに正味利益として説明してきた、「投資利益の蓄積(+自己資金額)」がNAVです。
つまりは、「いま不動産を売却して、売却益に対する税金を支払って投資を終了させた場合、結局、通帳残高はいくら残るのか」という解散価値がNAVです。

玉川陽介. Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて (p.44). 株式会社技術評論社.

そして、NAVがいくら増えたかは、下記により簡便的に計算されます。

NAV(の年間増加分) = 運用残高 ×(NOI利回り − 借入金利) − 税金

  • 運用残高:自分がコントロールしている不動産の規模
  • NOI利回り:不動産そのものの収益力
  • 借入金利:資本(他人資本)を使うためのコスト

となります。

お気づきでしょうか。これは、不動産ファンドの
EVA = 運用残高 ×(ROIC − WACC)
と、構造的にほぼ同じです。

現在、日本の都市部で行われている不動産投資の収益の源泉は、高い賃料収入(NOI)と低金利の借入との広いスプレッド(差額)にほかなりません。

玉川陽介. Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて (p.49). 株式会社技術評論社.

少し細かい話になってしまいますが、不動産ファンドの世界では(あるいはより広くコーポレートファイナンス全般の文脈でも)ROICといった場合、税引き後営業利益ベースで計算される%となります。したがって、今回のテーマになっている2本の式のうち、NAVの方だけ、最後に「ー 税金」という項で税金を引いていますが、EVAの方で使われているROICはすでに税金も差し引かれた前提での低めの%となります。このためEVAの方の式では「ー 税金」の項はつきません。


「規模 × スプレッド」という一本の軸

ここまでを見ると、不動産投資の本質はかなりシンプルになります。

規模(運用残高)を、
正のスプレッド(利回り − 資本コスト)で、
どれだけ安定的に回せているか。

それ以上でも、それ以下でもありません。

属人的に見える成功談も、
この式に分解すれば、

  • なぜスプレッドが取れたのか
  • なぜその規模まで拡大できたのか
  • なぜ途中で破綻しなかったのか

という形で、かなり冷静に説明できるようになります。

逆に言えば、
「この式が成り立っていない投資」は、
たとえ一時的にうまくいっているように見えても、長期的には不安定です。


なぜ、この視点を最初に共有したいのか

このブログでは、

  • 具体的な物件選定
  • 融資の考え方
  • ポートフォリオの組み方

といった話も、今後たくさん扱っていく予定です。

ただ、その前にどうしても共有しておきたかったのが、
「不動産投資をどういう座標系で考えるのか」という点でした。

EVAとNAVの対応関係を一度理解してしまえば、
不動産投資は「才能の物語」ではなく、
「構造の話」として考えられるようになります。

次回以降の記事では、

  • 個人投資家がファンドの思考から何を学べるのか
  • ROICやWACCを、個人の言葉にどう翻訳するのか

といった点を、もう少しずつ分解していく予定です。

今回はあくまで、そのための地図を一枚描いただけです。
ですが、この地図があるかどうかで、これから見える景色は大きく変わるはずです。

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