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最初に結論を書きます:借入金利が物件のIRRを下回る限り、融資期間は長いほど有利
借入金利が「物件そのものの利回り(アンレバードIRR)」を下回っている限り、融資期間は長ければ長いほど、投資全体のIRRは高くなります。
逆に、借入金利が物件のIRRを上回ると、この関係は逆転します。
つまり「35年融資と15年融資、どちらが得か」という問いの答えは、金利と物件利回りの大小関係で決まります。
これは、本シリーズで繰り返し扱ってきた「スプレッド」の考え方が、金額だけでなく時間にも効いている、ということです。
今回はその仕組みを、「最重要理論シリーズ」でご紹介した基礎理論を踏まえ、試算を交えて解説します。
大家同士でよく出る論争
大家仲間と話していると、融資期間については二つの流派があります。
一つは、 「融資はできるだけ長く引き、月々のキャッシュフローを厚くする」派。
もう一つは、「返済期間は短くして残債を早く減らし、売却時の手取り(売却額−残債)を大きくする」派。
どちらも一理あるように聞こえます。
前者は毎月お金が入ってくる安心感があり、後者は「総支払利息が少ない」「出口で大きく取れる」という納得感があります。
では、シリーズで学んできたIRR(内部収益率)という物差しを当てると、どちらに軍配が上がるのでしょうか。
IRRの復習はこちら → https://irei.jp/2026/06/24/theory_6/
前提条件:いつもの1億円の物件
試算の前提は、本シリーズでおなじみの例です。
物件価格:1億円 NOI:500万円/年(NOI利回り5%) 自己資金:2,000万円 借入:8,000万円(元利均等・毎月返済) 保有期間:10年 売却価格:1億円(買値と同額で売れたと仮定)
税金や売買コストは、話を単純にするため省略します。
この条件で、借入金利2%のまま、返済期間だけを15年と35年で変えてみます。
試算①:金利2%なら、35年返済の圧勝
結果は次のとおりです。
| 35年返済 | 15年返済 | |
|---|---|---|
| 年間返済額 | 約318万円 | 約618万円 |
| 年間キャッシュフロー(NOI−返済) | +182万円 | ▲118万円 |
| 10年後の残債 | 約6,252万円 | 約2,937万円 |
| 売却時の手取り(1億円−残債) | 約3,748万円 | 約7,063万円 |
| IRR | 13.7% | 10.0% |
35年返済のIRRは13.7%、15年返済は10.0%。
3.7ポイントもの大差です。
ここで注目してほしい点が二つあります。
一つ目。10年間に支払った利息の総額は、実は35年返済の方が多いのです(約1,432万円 vs 約1,115万円)。
残債の減りが遅い分、利息のかかる元本が大きいまま維持されるからです。
それでもIRRは35年の方が高い。
なぜでしょうか。
二つ目。15年返済は、金利わずか2%でも毎年のキャッシュフローが118万円の赤字です。
IRR以前に、10年間ずっと持ち出しに耐えられるのか、という資金繰りの問題を抱えることになります。
なぜ長期融資が勝つのか:IRRは「時間」を評価する物差し
IRRの本質は、早く受け取るキャッシュを高く、遅く受け取るキャッシュを低く評価することにあります。
二つのケースのキャッシュフローを並べてみましょう。
【35年返済】−2,000万 → 毎年+182万 × 9年 → 最終年+3,930万 【15年返済】−2,000万 → 毎年▲118万 × 9年 → 最終年+6,945万
15年返済の出口は確かに大きい。
しかしそのお金が手に入るのは10年後です。
一方、35年返済は初年度から毎年キャッシュが入ってきます。
10年後の300万円より、今年の300万円の方が価値が高い――これがIRR(そしてNPV)の根底にある時間価値の考え方でした。
別の言い方をすれば、こうなります。
「返済を急がない」ことは、「金利2%でお金を借り続ける」ことと同じです。
返済に回さなかったお金は、手元に残ります。
その手元資金が、金利2%以上の働きをするなら(次の物件の頭金でも、単に早く回収したという時間価値でも)、借り続けた方が得なのです。
繰上返済の議論の、ちょうど裏返しですね。
試算②:では、金利が何%なら逆転するのか
「それは金利が2%と低いからでは?」
そのとおりです。
では、金利を動かして、逆転する地点を探してみましょう。
| 借入金利 | 35年返済のIRR | 15年返済のIRR | 有利なのは |
|---|---|---|---|
| 1.0% | 16.1% | 11.5% | 35年 |
| 2.0% | 13.7% | 10.0% | 35年 |
| 3.0% | 11.0% | 8.5% | 35年 |
| 4.0% | 8.2% | 6.9% | 35年 |
| 4.5% | 6.7% | 6.1% | 35年 |
| 5.0% | 5.1% | 5.3% | ほぼ互角(逆転) |
| 5.5% | 3.5% | 4.5% | 15年 |
| 6.0% | 1.9% | 3.6% | 15年 |
逆転が起きるのは、金利5%の地点です。
この「5%」という数字、どこかで見覚えがないでしょうか。
そう、この物件のNOI利回りです。
より正確に言えば、この物件を全額自己資金で買った場合のIRR――アンレバードIRRです(買値と同額で売却する前提なら、アンレバードIRRはNOI利回りに一致します)。
つまり、こういうことです。
借入金利 < 物件のアンレバードIRR → 融資は長いほどIRRが高い 借入金利 > 物件のアンレバードIRR → 返済は早いほどIRRが高い
理屈は単純です。
返済を遅らせるとは、「物件が生むリターン(アンレバードIRR)」で運用しながら、「借入金利」でお金を借り続けることです。
運用利回りが調達金利を上回っていれば、借り続けるほど得。
下回っていれば、借り続けるほど損。
これは、本シリーズの背骨である「スプレッド」の議論そのものです。
正のスプレッドがあるとき、レバレッジを「金額として大きくかける」ことが有利であるのと同じ理屈で、レバレッジを「時間として長くかけ続ける」ことも有利になる。
融資期間とは、いわば時間方向のレバレッジなのです。
注意点:この結論には前提がある
きれいな結論が出ましたが、実務ではいくつか但し書きが必要です。
① 分岐点は売却価格で動く
上の試算は「買値と同額で売れる」前提でした。
もし売却価格が9,000万円(1割下落)なら、アンレバードIRRは約4.2%に下がり、逆転点も4%台前半まで下がります。
出口が弱い物件ほど、高金利で長期融資を引くことのリスクは大きくなる、ということです。
② IRRが高い=支払総額が少ない、ではない
先ほど見たとおり、35年返済は利息の総額では多く払っています。
「IRRでは有利、支払額では不利」――この食い違いに違和感を覚えた方は、⑧⑩で扱ったIRRとNPVの関係を思い出してください。
IRRは効率(率)の物差しであり、金額の物差しではありません。
③ 実務では、期間と金利は独立に選べない
長期融資には高めの金利が付き、短期融資には低めの金利が付くのが普通です。
「35年・2%」と「15年・1.5%」の比較であれば、両者の差は上の試算より縮まります(それでも多くの場合、長期が勝ちますが)。
④ 15年返済の毎年赤字は、IRR以前の問題
金利2%ですら年118万円の持ち出しでした。
IRRという物差しが何と言おうと、10年間の資金繰りに耐えられなければ投資は途中で終わります。
まとめ:「長く貸してもらえる」ことは、それ自体が価値
今回の内容をまとめます。
・IRRは「早いキャッシュ」を高く評価する物差し ・借入金利<物件のアンレバードIRRなら、融資期間は長いほどIRRは高い ・分岐点は物件のアンレバードIRR(簿価売却ならNOI利回り) ・融資期間は「時間方向のレバレッジ」であり、スプレッドの議論の延長線上にある
機関投資家の世界でも、低利で長期の資金を調達できることは、それ自体が競争力です。
個人投資家にとって、金融機関が「長く貸してもよい」と言ってくれることは、単なる返済の楽さではありません。
正のスプレッドを、より長い時間にわたって享受する権利(ちなみにですが、貸手である銀行側は、借手に与えられたこの利益を指して「期限の利益」と呼ぶらしいです)を与えられている、ということなのです。
だからこそ、融資期間を長く引けるというのは、それほどまでに有難いことなのだと思います。
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